暖かい日が増え、少しずつ本格的な春に向かっている今日この頃。

3月には、「啓蟄(けいちつ)」と「春分(しゅんぶん)」、2つの二十四節気を迎えます。

啓蟄は、土中で冬ごもりしていた生き物たちが目覚める頃。
春分は、桜が咲き始め、本格的な春がおとずれる頃。
いずれも春の深まりを感じさせる言葉ですが、人々が春の到来を喜んでいる頃、冬を日本で過ごしていた渡り鳥は、北(シベリア)へ帰っていきます。

「渡り鳥」は、食べ物や環境、子育てなどの理由で、長い距離を移動する鳥の総称で、大きく3つにわけることができます。

ガンやジョウビタキのように、日本で越冬する「冬鳥」。
ツバメやカッコウのように、春に日本にやって来て子育てをする「夏鳥」。
シギやチドリのように、中継点として日本に立ち寄る「旅鳥」。

季節によって、渡り鳥の種類もさまざまですね。



一年の季節を72等分した七十二候にも、「渡り鳥」を謳った「鴻雁北(こうがんかえる)」という候があります。

これは春の七十二候ですが、暖かくなると日本へやってくるツバメとは反対に、冬の間を日本で過ごしたガンが北のシベリアへと帰っていく頃をあらわしています。

いっせいに北へ向けて雁が飛び立つ光景は、少し寂しいような、切ないような気持ちになりますが、秋になるとまた日本にやってきて、元気な姿を見せてくれます。

雁が海を渡る様子は、昔から人々の心を惹きつけてきました。「雁風呂(がんぶろ)」という春の季語がありますが、これは、青森県の津軽地方に伝わる言い伝えです。

秋になると日本にやってくるガンは、海面に浮かべて体を休めるための小枝をくわえてきます。海を越え、浜辺に着くと、その小枝を浜辺に落とし、翌年の春にまた同じ小枝をくわえて北へ渡っていきます。

春が過ぎても、浜辺に残っている小枝は、冬の間に日本で死んでしまったガンのもの。供養のために、その小枝で焚いた風呂を旅人にふるまうならわしがありました。

「雁供養」も、春の季語になっています。

実際は、ガンが海を渡るときに小枝をくわえてくることはないそうですが、海を渡る長く厳しい旅をするガンに対する思いやりを感じられる言葉です。

無事に、たどり着きますように。元気でまた、帰ってきますように。
春と秋には、思いをめぐらせ、そっと旅の無事を祈りたいと思います。

気軽に楽しく「今」の和暦を知ることができるサイト。日めくりの魅力を伝えるとともに、二十四節気や七十二候のこと、四季折々の美しい日本風景や旬の食材などを紹介しています。
twitter
facebook
インスタグラム
商品詳細ページへ