こよみの学校

第212回 アメリカの感謝祭 国の歴史を写す鏡

最終木曜日から第4木曜日へ

現在、11月の第4木曜日がアメリカの感謝祭(Thanksgiving Day)です。国の祝日となったのは1863年の南北戦争のさなかでした。時の大統領リンカーンは、南北戦争のために苦しむ人びと、とくに未亡人や孤児になった人たちのために神の加護を願い、国家の傷を癒すために11月の最終木曜日をその日に定めました。奴隷解放宣言(1月1日)と同じ年の宣言(10月3日)として記憶に留めておくとよいかもしれません。

ところで、大恐慌の余波を受けていた1939年、11月の最終木曜日は30日でした。となるとクリスマスまでの週末は3回のみとなり、売り上げを危惧した小売商組合が政府に働きかけた結果、フランクリン・ルーズベルト大統領(民主党)は感謝祭を1週間繰り上げて11月23日とする決定をくだしました。しかし、これは各方面で不評をかい、国民生活を混乱させ、「フランクスギビング(Franksgiving)」とまで揶揄されました。翌1940年にも混乱は続き、州ごとに日にちが異なりました。ある漫画映画では「民主党の感謝祭」と1週間後の「共和党の感謝祭」という具合に皮肉られる始末でした。ようやく1941年になって連邦議会での妥協が成立し、第4木曜日に固定されることになりました。こうして感謝祭は11月28日以降になることはなくなりました。

感謝祭の起源説話

アメリカにおける感謝祭の起源については、ニューイングランドのプリマス植民地においてピルグリム・ファーザーズと先住民が仲良く祝宴を催したという故事が定説となっています。1620年、イギリスのプリマスからメイフラワー号でやってきたピューリタン(清教徒)のピルグリム・ファーザーズたちは厳冬をほとんど船内ですごし、壊血病や感染症のために乗船者の半数を失いました。春になり、生きのびた人びとが開墾をはじめようとしたとき、片言の英語を話す先住民がやってきて、トウモロコシの栽培、カエデの樹液採取や漁法などを教え、有毒植物の存在についても伝授しました。さらに地元の有力民族であるワンパノアグ族と同盟を結ぶようすすめました。そうして秋になり、無事トウモロコシの収穫を終えた後、50人ほどの植民者たちはワンパノアグ族などの先住民約90人とともに3日間にわたる「最初の感謝祭」をおこなったというものです。このような民族共生の説話は経済と社会が混乱した大恐慌時代に流布したと言われています。

実際、宗教的迫害を逃れて大西洋を越えたピルグリム・ファーザーズたちはアメリカ合衆国における最初の植民者集団ではありません。ヨーロッパからの入植はすでにコロンブスの新大陸到着の直後からはじまっており、北米ではイギリスとフランスが先導しますが、オランダやスェーデン、スペインも加わっていました。メイフラワー号で発生した正体不明の伝染病もヨーロッパ人によってもたらされたものです。そのためワンパノアグ族も人口減少にみまわれ、プリマスの入植者と同盟を結んで貿易パートナーとなり、他の民族やフランスに対抗しようとしたのです。そのうえ、ニューイングランドにはイギリスから植民者が次々に到来し、土地を奪われた先住民との関係は悪化していきました。1675年6月にはワンパノアグ族を中心とする先住民勢力とニューイングランド連合(一部の先住民を含む)とのあいだで戦争が勃発し、双方とも多くの犠牲者を出した末、翌年8月、後者の勝利に終わりました。今でも一部の先住民が感謝祭に反対する理由は、こうした長期にわたる収奪と抑圧の歴史に潜んでいるのです。

独立戦争以降の感謝祭

1789年、初代大統領ジョージ・ワシントンは連邦政府として初の感謝祭を宣言しましたが、それは独立戦争の勝利と合衆国憲法の批准に感謝するものでした。ただし、その実施は各州にまかされました。ニューヨーク州をはじめ北部諸州のいくつかは1817年に感謝祭を祝うようになりましたが、日にちはばらばらでした。北部に対抗する南部諸州も従順ではありませんでした。その一方、のちに「感謝祭の母」と呼ばれるようになった雑誌編集者のサラ・ジョセファ・ヘイルは感謝祭を国家の祝日にするためのキャンペーンを繰り広げ、それが冒頭に述べたリンカーンの感謝祭宣言につながりました。

先住民との共生と対立、国家の独立、南北戦争、そして大恐慌時代のコマーシャリズムなどに翻弄されながら、アメリカの感謝祭は今日のような家族の絆をかためる行事へと変貌してきたのです。

【参考文献】
https://www.britannica.com/topic/Thanksgiving-Day
https://www.history.com/topics/thanksgiving/history-of-thanksgiving

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