こよみの学校

第196回 サロス周期―古代バビロニアの食予測

メトン周期(本コラム第192回参照)とならんで古代から知られている、もう一つの天文学上のサイクルがサロス周期です。紀元前600年の頃までにはバビロニア人に認識されていました。サロスという名称は3,600年という別の周期のことだったのですが、17世紀末から使われはじめ、今日に至っています。

サロス周期は日食や月食と関係するサイクルです。天文学的には以下のようになります。

223朔望月≒6585.32日
242交点月≒6585.36日
239近点月≒6585.54日

われわれの使っている暦(グレゴリオ暦)では18年と10日(閏年が5回入る場合は11日)と8時間ほどになります。これが暦とどう関係するかという疑問にまず答えておかねばなりません。なぜなら、暦の良し悪しは日食や月食の予報が当るかどうかで判断され、たとえば江戸時代にはそれが暦の改良、すなわち改暦につながっていたからです。

日食は太陽が月によって隠される現象です。他方、月食は月が地球の影に入って欠けたように見える現象です。両者とも太陽と地球と月がほぼ一直線上にならぶためにおこる現象ですが、その位置関係は、日食は太陽-月-地球であり、月食は太陽-地球-月になります。

日食と似たならびになるのが新月です。しかし、日食は新月のたびに起こるわけではありません。なぜなら月の軌道(白道)は太陽の軌道(黄道)に対して5.1度ほど傾いているからです。日食は、月が2つの軌道の交点付近で新月になったときにしか起きないのです(図1)。他方、月食と似たならびになるのが満月です。しかし、月食も満月のたびに起こるわけではありません。理由は日食と同様、白道と黄道に5.1度の傾きがあるためです。

とはいえ、白道と黄道の交点付近で日食や月食は起こります(図2)。そして交点に近いほど深い食になります。これは交点を基準にした月の周期である交点月(27.212221日)から予測します。また金環とか皆既の食は地球と月の距離に依存して起こります。月が近づいたり遠ざかったりする周期を近点月(27.554550日)と言いますが、それで予測するわけです。

サロス周期に話を戻しましょう。223朔望月(ひと月は29.530589日)は242交点月、ならびに239近点月にほぼ等しくなります。これは、ある日食から1サロス周期後、太陽と月は交点から同じくらい離れたところで出会うことを意味しています。また、サロス周期だけ離れた日食同士は金環か皆既かという点では似たような性格をもつことになります。こうしたことが古代バビロニアで知られていたことがまず驚きです。そして、さらに驚いたことには、アンティキティラの機械には223の歯車あって、日食や月食の予報に使っていたと考えられています(第194回参照)。

ところで、メトン周期とちがってサロス周期には番号がついています。たとえば、同じサロス番号をもつ日食はきわめて似た性格の日食となります。ジョルジュ・ファン・デン・ベルフというオランダ人が1951年に食に関する本を出版した際、歴史にあらわれたサロス周期に番号を付して予測に役立てようとしたのが最初です。2021年現在、日食は40本、月食は41本の系列が進行しているとのことです。その系列には始まりがあり、終わりがあります。たとえば、2011年7月1日に南極近海で部分日食として発生した156番のサロス周期は2054年8月3日に同じく南極近海で終了します。他方、月食の場合、2013年5月25日に150番の系列が発生し、2027年7月18日には110番が消滅して、ふたたび40本になるとのことです。

日食と月食は不可思議な天文現象として岩絵に描かれたり、不吉な出来事として捉えられたりしてきました。悪魔が太陽を食べているとか、太陽と月が性交しているといった類です。その一方で、サロス周期を知っていたとは人類も捨てたものではありません。

【参考文献】
片山真人『暦の科学』ベレ出版、2012年。
ウィキペディア「サロス周期」2021年11月10日。
Fred Espenak “Eclipses and the Saros”, NASA Website.

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