こよみの学校

第180回 年占の民俗—もうひとつの一年の計

初詣の楽しみのひとつはおみくじです。大吉なら縁起がいいと喜び、たとえ大凶でも後は良くなる一方だとかんがえれば、心は落ち着きます。今年は密を避ける意味でも初詣に二の足を踏む人が多いようです。その一方、正月三が日だけでなく1月いっぱい初詣ができると広報する神社もあるようです。

今年の一年を占う「年占(としうら)」

農漁村地帯には正月に1年の吉凶を占う慣習があります。民俗学ではそれを総称して年占(としうら)と呼んでいます。占う事柄は大別してふたつです。ひとつは作柄や漁の吉凶で、もうひとつは天候です。占う時期は主に旧暦の小正月、つまり最初の満月の晩です。節分にも占いはおこなわれます。江戸時代の津軽の「寒試(かんだめし)」のように、小寒から立春までの気象の変化を1年に拡大するものもありました(本コラム第50回「雪国カレンダー」参照)。

占う方法もさまざまです。小正月に粥(かゆ)を用いる方法を粥占(かゆうら)といいます。粥のなかにその年の月の数だけ(平年は12、閏年は13)細い竹や葦の管を入れ、中におさまった粥や小豆(あずき)の数で月ごとの豊凶や天候を占うものです。本家でやるところもあれば、筒粥(つつがゆ)神事として神社でおこなうところもあります。粥棒とよばれる柳や白膠木(ぬるで)の棒に割れ目をつけ、そこにつく粥の量で判断するところもあります。

節分に占う「豆占」

他方、豆占は節分の夜におこなわれます。豆は鬼に投げつけたり、歳の数を食べたりするだけではないのです。まず炉の灰に火箸で月の数だけ溝をつけ、そこに豆をならべて焼き、その焼け具合で月ごとの吉凶や天候を占います。白く焼けて灰になれば、その月は晴れの日が多く、黒く焼けると雨が多いとか、早く焼けてしまうと日照りにみまわれ、蒸気を噴き上げると風が強いなどと判断します。漁師の場合は、白く焼けると豊漁、黒く焼けると凶、半分白く、半分黒いと半吉というように占いのです。

粥や豆のほかにも餅や炭がつかわれます。3つの餅のつき具合によって早・中・晩種の吉凶をうらなう年見(としみ)もあれば、炭の燃え具合によって月々の天候を占う置炭(おきすみ)もあります。

正月行事の綱引きもまた占いに用いられます。大阪府島本町尺代の諏訪神社では1月6日に弓引きとともに綱引きがおこなわれ、3回たたかって勝ったほうが豊作に恵まれるといわれています。ちなみに弓引きのほうは1年の厄災を除くためにおこなわれます。わたしの勤務する吹田市立博物館では2017年秋の特別展示において、北大阪に今でも残っている貴重な行事として紹介させていただきました。

ドイツの鉛占い

年占に似た外国の例もひとつ紹介しましょう。それはドイツのブライギーセン(鉛占い)です。スプーンに鉛を置き、ローソクの火で溶かし、水に入れて急に冷やします。そうしてできた形を見て来る年の運勢を占うものです。ボールのように丸いとうまく転がると喜び、刀のようだと勇気がいるといい、カエルに似ていれば宝くじに当たるとされ、キツネだと賢く自立できると判断されます。聖杯となれば将来は約束されたようなもので、仮面ならばどこでも歓迎されるとのことです。鉛のかわりに錫やワックスをつかうこともあり、EUでは2018年から有毒な鉛を禁止しているそうです。

最後に私事になりますが、齢30の頃、奄美で宗教調査の最中に、調査仲間と一緒に元日、ユタと呼ばれる霊能者に占ってもらいました。それぞれに結果は知らされたわけですが、わたしの場合、そのうちのひとつは「73歳が要注意、それを乗り越えると大丈夫」というものでした。その歳まわりがそろそろ終わりかけていますが、考えてみおればコロナ禍におそわれた1年でした。一刻も早くコロナから解放される日々が戻ることを願わずにはいられません。

  

月ごとに見る
twitter
facebook
インスタグラム

ページトップ