先回はブラジルのカトリック教会の日系人向けカレンダーを紹介しました。今回はブラジルをはじめとする南米における仏教徒向けのカレンダーを取り上げてみます。日本の宗教教団は30あまりブラジルに進出していますが、そのすべてが独自のカレンダーを信徒に頒布しているわけではありません。伝統仏教では浄土真宗の東本願寺と西本願寺がそれぞれの宗派を超えて統一カレンダーをくばっていることが注目されます。
それは「法語カレンダー」とよばれるもので、真宗教団連合のもと南米支部でも毎年発行されています。真宗教団連合には西本願寺や東本願寺を筆頭に真宗10派が参加しています。南米の使用言語は日本語、ポルトガル語、スペイン語の3つです。ブラジルがポルトガル語、それ以外の国々ではほぼスペイン語が主要言語となっているからです。
2011年のカレンダーの表紙を飾る法語は親鸞の『教行信証』からとられた一節「遠く宿縁を慶べ」でした。ポルトガル語とスペイン語の訳を見ると「遠く」は「遠い過去からの」という意味なっています。しかし、日本から距離が遠いというふうに理解する人もいるかもしれません。 裏表紙には「法語について」という解説があり、こちらは日本語とポルトガル語だけが載っています。そのとなりには「写真について」と題した写真家による解説があります。それによると表紙の写真は親鸞生誕の地、京都は伏見の日野の里の写真です。1月からの写真もすべて親鸞の生涯をたどる、ゆかりの地の写真で構成されています。他方、毎月のカレンダーの頁にある法語は日本語・ポルトガル語・スペイン語が併用され、出典が記されているものもあれば、そうでないものもあります。中興の祖、蓮如上人の言葉も選択されていますし、有名な教学者、清沢満之(きよざわまんし)の名前もみえます。共通のテーマは「生きる」です。
毎月のカレンダーには日本語とポルトガル語で行事予定がのっています。日本語は日付の欄に、ポルトガル語は月表の欄外にあります。東(Higashi)と西(Honpa)に区別されているのは、10派と言いながら主流は2派だからです。月表には月の満ち欠けも4種類記載され、いかにも南米風のレイアウトになっています。下の欄外には旅行会社のアルファインテルとツニブラの広告がのっています。日系旅行会社の代表格が真宗寺院の訪日参拝を取り扱っていることがうかがえます。現に、1頁はその広告で占められていました。
真宗教団連合の南米支部は1990年代の初頭に設立され、東と西が毎年交代で編集していましたが、調査時の2008年頃は2年交代になっていました。翻訳は2006年3月までは東本願寺の真宗教学研究所が担当していました。発行部数は17,500部で、印刷はサンパウロの日系雑誌社Bumbá社が受注していました。頒布価格は3レアル(当時、約180円)でした。
法語カレンダーのほかにもめずらしいカレンダーがありました。2002年の真宗大谷派東本願寺南米開教区「南米開教50周年記念」のカレンダーです。これは万年日めくり型で日本語・英語・ポルトガル語、スペイン語が使用されていました。真宗関係の親鸞、蓮如、教学者、信徒に混じってルターやパスカルの名文句も挿入されていました。ルターは「死は人生の終末ではない 生涯の完成である」と語り、パスカルの文言からは「われわれは自分自身のことを実にわずかしか知らない」が採用されていました。このカレンダーは手元にはなく、国立民族学博物館のアメリカ展示場の暦コーナーに陳列されています。
東本願寺といえば、今月1日、門首の座が大谷暢顯(ちょうけん)師(第25代)から大谷暢裕(ちょうゆう)師(第26代)に継承されました。新門首は父が南米開教区の開教使となったのにともない、一歳の時に渡伯し、長じてサンパウロ大学から物理学の博士号を取得しています。日常会話や読み書きは日本語よりポルトガル語のほうが得意という異色の存在です。