こよみの学校

第169回 十二直②―成(卯月)、建(皐月)、危(水無月)

夏の十二直

夏は旧暦の月切りで4月(卯月)、5月(皐月)、6月(水無月)となります。
意勢固世身(いせごよみ)見立(みたて)十二直ではそれぞれ成(なる)、建(たつ)、危(あやう)があてられています。その見立ては成が日長で、建は鯉のぼり、危は夕立です。

成は物事が成就する意味なので万事に吉です。
時候は夏のはじめで、四方の山々は青葉に覆われ、花は実となり、人々は薄着になります。日脚も長くなり、退屈しのぎに将棋を打てば、駒が成金になるという見立てです。歌の意味はよくわからないところもありますが、上空でひっきりなしに鳴いているこの時期の鳥、ホトトギスを詠んでいます。錦絵を見ると、キセルをもった女性が将棋盤の前に座って空を見上げ、そこに一羽のホトトギスが飛んでいます。コマ絵(枠内の絵)には将棋の駒が描かれています。

旧暦の5月5日は端午の節句です。柱を建てて鯉のぼりや吹き流しをつけ、武者の幟(のぼり)を立てたりします。もともと男児の成長を祝う日で、武家を中心としていましたが、次第に富裕な町人の家にも普及していきました。鯉のぼりは江戸時代後期から盛んとなり、当初は真鯉のみだったようです。祝いに欠かせない魚は鯛でした。女性たちのうしろには太刀が2本飾られています。これは菖蒲太刀(あやめだち、しょうぶだち)とか菖蒲刀(あやめがたな)とよばれるもので、菖蒲の葉に見立てた木刀の飾りものです。菖蒲が勝負に通じることは言うまでもありません。

説明書きの文意はおよそ以下のとおりです。建は起立の意で、男児の初節句には竜門に昇天した奇瑞を示す鯉のぼり、また紙製の上兜(あがりかぶと)や菖蒲太刀を飾って出世の開業を祝い、店が賑っているのは(現在の室町から銀座にかけての)十軒店に尾張町、妖魔の邪気を吹き流し、雲に届くほどの男児の身の丈は立身出世につながる青雲の架け橋となるであろう。末尾の歌は、万葉集の「奈良山の児手柏(このてかしは)の両面(ふたおも)に…」を下敷きにしています。ヒノキ科のコノテカシワの葉は表と裏の区別がつかない形をしています。子どもの肌は柏餅のようで、親が子にそそぐ愛情は裏も表もない(両面)ということでしょうか。

斗魁(とかい)とは北斗七星の器にあたる部分のことです。
険(けわ)しさは危と組み合わさり、危険という熟語になります。十二直の危(あやう)を6月に見立てたのは、滑りやすい氷からの連想です。氷室(ひむろ)におさめた氷を取り出しはじめるのが「氷の節句」とか「氷の朔日」とよばれる6月1日です。朝はいい日和でも、手のひらを返したように急に見舞われる夏の夕立。法華経の信者も浄土信仰の阿弥陀堂に駆け込むと皮肉っています。結びの歌は雷を久米仙人(くめのせんにん)に見立てています。奈良の久米仙人は空中飛行の術を体得しましたが、洗濯女の脛(はぎ)が白いのを見て神通力を失い墜落したと伝えられています(今昔物語、徒然草)。雷もまた衣を脛の上までまくりあげる女性を見て落ちるという次第。錦絵を見ると、母子とも雷鳴に耳を押さえ、女性は右手で裾をたくしあげています。雷のほうはコマ絵に描かれています。

月ごとに見る
twitter
facebook
インスタグラム

ページトップ