こよみの学校

第166回 十二直① ―開(睦月)、納(如月)、平(弥生)

十二直とは?

十二直(じゅうにちょく)は旧暦の暦注のひとつで、日々の吉凶を一文字であらわしています。12種類あり、直には「当たる」「相当する」という意味がありました。現在では日めくりや運勢暦くらいにしか載っていませんが、旧暦時代にはもっともポピュラーな吉凶の暦注でした。伊勢暦などには暦の中段に記載されていたので、「中段」ともよばれていました。十二直の漢字と現代読みは次のとおりです。

この12文字を十二支と組み合わせて配したのが十二直です。配列のルールは節切りで、冬至のある節月、つまり11月節を基準とし、11月の最初の子の日を建としました。翌日の丑の日は除となり、翌々日の寅の日は満です。12月節の場合は、最初の丑の日が建です。つぎの正月節、つまり立春からはじまる月の場合は、最初の寅の日が建となります。このように十二直は配されるのですが、もうひとつルールがあります。それは、節入りの日のみ、その前日の十二直をくりまえします。つまり、おなじ十二直の字が2日つづくというわけです。なぜこのようなことをしたかというと、十二支と十二直はおなじ12のサイクルなので、そのままでは永遠におなじ組み合わせにしかなりません。それではおもしろくありません。そこでひと月に一日ずらしたのです。しかし、12ヵ月たつと元のサイクルにもどります。

十二直が描かれた浮世絵

これから紹介するのは意勢固世身(伊勢暦)見立十二直という浮世絵です。折本の伊勢暦の表紙には「暦中段つくし」とあり、まさに十二直が月ごとに12枚そろっています。作者は三代豊国(歌川国貞)です。弘化期(1845年~1848年)から嘉永期(1848年~1855年)にかけて製作されました。この浮世絵には十二直の意味に合わせ、四季折々の女性たちの姿が描かれています。春にあたる睦月、如月、弥生の3ヵ月は十二直の開、納、平が対応しています。その理由はよくわかりませんが、一年の最初は「開」がふさわしいと考えたからかもしれません。2月(如月、梅見月)の初午は伏見稲荷大社の創建日とされ、絵馬を奉納し商売繁盛を祈願しました。それで「納」を選んだのでしょうか。3月(弥生)は桜の花見を楽しみ「平」かに暮らす月とみなしていたようです。以下、旧仮名づかいのままですが、各自、文章や句を味わってみてください。

*青陽とは春の異称。五行説では春は青色だからです。 *眉玉とは繭玉のことか。小正月に餅で繭玉をつくり木に飾って養蚕の祈願をしました。

<絵の解説> 鉢植えに梅と福寿草がみえ、それが梅暦と福寿草に対応しています。

*良辰とは良い日がら、吉日のこと。 *おさんは下女の名前だけではないとわざわざ断っていますが、おそらく近松門左衛門作「大経師昔暦」を念頭に置いているのでしょう。というのも、大経師の女房おさんが誤って手代の茂兵衛と通じたことが事件の発端になっているからです。

<絵の解説> 如月の初午祭に荒馬の小絵馬を奉納する習俗が描かれています。鳥居の横に立つ幟(のぼり)には、稲荷大明神に贈られた正一位の称号がはためいています。

*桜がりは秋の紅葉狩りとおなじ意味です。 *土産に「いへづと」のふりがながついていますが、家へ持ち帰るみやげの家苞(いえづと)のことを意味しています。

<絵の解説> 天狗の面をかぶり、三味線を担いでいる女の子が桜のかんざしをつけています。

 

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