京都国立博物館(通称、京博)は奈良国立博物館とともに1889年に設置されました。開館は1897年です。当初の名称は帝国京都博物館でしたが、京都帝室博物館、恩賜京都博物館と改称され、戦後、1947年に現在の名称となりました。戦前は京都の社寺を中心とする寄託品が多数を占めていましたが、戦後は館蔵品購入のための予算が計上されるようになり、多くの貴重な文化財が収集・保存されるようになりました。
2006年の時点で京博の館蔵品は6260件、寄託品は6197件です。そのうち国宝は83件、重要文化財は630件にのぼります。まさに「お宝」の宝庫ですが、その京博が館蔵品を含む全国の国宝を200件以上、一挙に結集し公開した展覧会がありました。それが開館120周年記念と銘打った2017年秋の特別展覧会「国宝」です。
重要文化財と国宝は文化財保護法にもとづき建造物、絵画、彫刻、工芸、書跡、考古等の分野で指定されます。なかでも国宝は「重要文化財のうち製作が極めて優れ、かつ、文化史的意義のとくに深いもの」とされています。「国宝」展当時、国宝の総計は1108件でした。そのほぼ5分の1が美術工芸品と書跡、考古を中心に全国から集められ、一堂に会したわけですから、圧巻と言うだけではすまない迫力に満ちていました。
「国宝」展の図録はほぼA4サイズで400頁をこえる分厚いものでした。ペーパーバックにもかかわらず、重さも1.6キロにのぼりました。表紙・裏表紙と背表紙は尾形光琳の「燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)」から、表紙の裏頁は雪舟の「天橋立図」からとられていました。金箔の上に緑と青で描かれた燕子花はまさに「国宝」にふさわしい品格をそなえていたと言えるでしょう。
図録と同時に作成されたカレンダーもまた表紙は金地に桜の「桜図壁貼付(さくらずかべはりつけ)」(長谷川久蔵筆)で、豪華さでは負けていませんでした。サイズはA4の長辺の正方形で、中綴じ(段返し)です。2018年用のカレンダーですが、特別展覧会の会期に合わせ前年の11月と12月の月表が追加され、14ヵ月使用できるミュージアム・カレンダーならではの特徴をそなえていました。
「国宝」カレンダーに採用された作品は月ごとに次のように配されていました。
1月 | 風神雷神図屏風(俵屋宗達筆 京都・建仁寺) |
---|---|
2月 | 普賢菩薩像(東京国立博物館) |
3月 | 金銀鍍宝相華唐草文透彫華龍(滋賀・神照寺) |
4月 | 桜図壁貼付(長谷川久蔵筆 京都・智積院) |
5月 | 四騎獅子狩文様錦(奈良・法隆寺) |
6月 | 扇面法華経冊子(大阪・四天王寺) |
7月 | 紅白芙蓉図(李迪筆 東京国立博物館) |
8月 | 天橋立図(雪舟筆 京都国立博物館) |
9月 | 油滴天目(大阪市立東洋陶磁美術館) |
10月 | 高雄観楓図屏風(東京国立博物館) |
11月 | 時雨螺鈿鞍(東京・永青文庫) |
12月 | 松林図屏風(長谷川等伯筆 東京国立博物館) |
季節と合う図柄は4月の桜、6月の芙蓉、そして10月の楓(かえで)の3点です。水墨画の天橋立図と松林図屏風は風景を描いてはいますが、季節は特定できません。いくら国宝とはいえ、季節感にそぐわないと興ざめしてしまいます。国宝の写真をながめながら一年を過ごす贅沢をこのカレンダーは余すところなく提供していました。それもミュージアム・カレンダーの醍醐味と言えるでしょう。
【参考文献】
京都国立博物館、毎日新聞社編『京都国立博物館開館120周年記念特別展覧会「国宝」図録』2017年。