寒入りして、冷え込みが一段と厳しくなってきました。凍った冬の大地に大きな葉を繁らせ、抜いてほしいといわんばかりに、にょっきりと白い肌をみせて立ち上がる大根に、強い生命力を感じます。
大根引き大根で道をおしえけり 一茶
寒い冬の日、道を尋ねる人と、農作業の手をとめて教える人。日常の風景が鮮やかに目に浮かぶ私の大好きな一茶の句です。
江戸時代の絵図をみていると、大根はしばしば、ねずみや大黒様と一緒に描かれています。嫁が君はねずみの別名で、正月の三が日のみに使われる祝い言葉。日頃は大事な食物を荒らす迷惑なねずみにも、人間と同じようにお米やお餅をお供えし、大黒様の御使いとしてもてなしてきたのです。余談ですが、正月にはカラスにもお餅を投げ与える風習が各地に残っています。
日本人は身近に暮らす動物や鳥にも優しい心を持った民族。すべてを独り占めするのではなく、この自然界に共に生きているという感覚が根底にあるがゆえに生まれた風習といえるでしょう。先にご馳走をふるまって、後の食害が少なくなることを願う気持ちもあったとおもわれます。
蓬莱の山を崩すや嫁が君 子規
生きとし生けるものすべての命をおおらかに寿ぎ、睦み合うのが睦月です。たくさんの命に支えられていることに感謝して暮らしたい月です。毎年のことながら、おせち料理も海の幸、山の幸がさまざまな調理法でととのえられ、日本の食の奥深さを感じずにはいられません。
ところで、大根の発祥地は古代エジプトで紀元前2千年頃から栽培され、古代ギリシャ、ローマ時代には薬草として珍重されていたようです。日本では弥生時代には伝わって、飢饉の救荒作物として全国に広まっていきました。ご存知の通り、平安時代から伝わる春の七草のひとつ「すずしろ」です。
七草ついてはまた後日書きたいとおもいますが、季節のおすすめの食は「菜飯」。大根の葉はカロチンの多い緑黄色野菜で、ミネラルの宝庫です。ビタミンCは根よりも5倍も多く含まれています。塩もみしてからご飯やお粥に混ぜこむと、風邪をひいて食欲がないようなときでも美味しくいただけます。
大根はそれぞれの風土に適合した固有種が多く、日本にはなんと、百種類を越える品種が確認されているそうです。大根の生産量が世界一ともいわれる日本はまさに大根王国なのですが、なかでも、全国的に珍重されていたのが、二又大根です。
二又大根はアエノコトなどの神事には欠かせないお供え物です。二又大根は土中に石や砂利が多いときにできるもので、現在は形の悪い規格外として市場には出回らないものですが、江戸時代まではこの変形の大根こそが、おめでたいものでありました。
大黒様は厨房の守護神であると同時に、五穀豊穣の神とされ、農村では田の神として秋の収穫が終わった後に「大黒祝い」を行う風習があります。その際に供えるのが豊作の象徴とされた二又大根でした。そんなわけで、ねずみは食料を守る大黒天のお遣いとして大事にされ、大根と一緒に描かれていることが多いのです。大根は福をよぶ食べ物。運よく二又大根を見つけたら、ラッキーです。立春はまだ先ですが、ちらほらと梅が咲き始めています。
舞ひ込んだ福大黒と梅の花 一茶
くりもと地球村さんから届いた二又大根。人参も二又でした。
へたに出ていた小さな芽が可愛らしかったので、水につけておいたら、こんなに大きくなりました。