地上に森林が出現したのは、今から3億5千万年前。石炭は当時の植物が分解されないまま埋没し、長い年月をかけて生成された太古の遺産です。古生代に大量の石炭ができたのは菌類がまだ十分に発達していなかったためなのです。その後、植物と共に進化してきた菌類は、多くの植物の根と共生関係にあり、有機物を最終的に土に還す重要な役割を果たしています。
ですから石炭は以前のように生成されることはなくなり、限られた資源を使い果たしてしまえば枯渇することになるのです。目にみえない菌類は地中にはりめぐらされ、地球最大の生物ともいわれています。私たちが棲む現在の自然界は、植物、動物、菌類、この三者の巧みな循環によって、永続的な調和が保たれています。
雨上がりに突如、帽子をかぶった妖精のような姿を現すきのこたちは、めにみえない地中の豊かさを顕わす花であり、大地の果実のようなものです。ふだんはみえないものが一瞬だけ姿をあらわすとき、思わずハッとして立ち止まり、その不思議な形の美しさや気高さに圧倒され、大地への感謝の思いがあふれてきます。
森の掃除屋であるきのこは人間の食べ物としても、体内に溜めた余分なものや添加物を吸着して、体外に排出させる働きがあります。ミクロでもマクロでも同じ働きをしてくれる有り難い存在。3.11以降はきのこから放射性セシウムが検出されるようになり、山野の自生きのこを食べられない地域も出ていますが、きのこの働きの素晴らしさを証明してくれているのだといつもおもうのです。分解し、掃除し、土を健全に保つためにはなくてはならない存在。大切な役割を果たしていることを感じずにはいられません。
その味わいは滋味深く、まさに秋の味覚の代表といえるでしょう。種類によって歯ごたえも香りも異なります。私が好きなのは、秩父できのことりの名人が作って下さる香茸の天ぷらと炊き込みご飯。松茸よりも私は香茸の方がずっと好きです。
写真は、四季の山の幸を熟知している川場村の遠藤さんと山に採りにいった、美しい黄色のヤマドリダケです。遠藤さんはヤマドリダケの名前は山鳥の羽の色に似ているからだと説明してくださったのですが、調べてみるとそれは土地の言い方で、正確にはヌメリスギダケモドキなのかもしれません。なぜながらこのきのこは、どれもヤナギの木に生えていたからです。
いずれにしてもこのきのこはヤナギと共生関係にあるようです。こうした関係が数限りなく結ばれているのだとおもうと、楽しい気分になります。ひたすらヤナギの木を探し、倒木や切り株に生えているものは採りやすいのですが、高いところにあるのは採れないものもありました。この美しいきのこたちは、夜、民宿のおかみさんに頼んで、焼いていただき、醤油をかけていただきました。