足元のセンス・オブ・ワンダー
キランソウ

今回はこの季節に見られる小さな紫の野の花たちと、その見分け方をお伝えします。なかでも私がいちばん好きなのは、このキランソウです。大地に張りつくようにキラッと輝くこのひときわ濃い紫を見つけたとき、心が踊ります。

キランソウには別名がたくさんあります。金襴織物の小さな切れ端のように見えることから金襴草。本当に輝いてみえるのです。また化膿した切り傷(瘡)や虫刺されにこの生葉を揉んだ葉汁を塗ると効果があることから金瘡小草とも書きます。金は「尊い、貴重な」という意味がありますので、尊い傷薬といった意味でしょうか。キは紫、ランは藍色で「紫藍草」という表記もあります。

写真1

一度きいたら忘れない「地獄の釜の蓋(ジゴクノカマノフタ)」というちょっと禍々しい名前もあるのですが、たしかにひとかたまりにへばりつくように生え、円か楕円にかたまっているその姿は地面にパカっと丸い蓋をしたかのようですし、薬効が高いために死にかけていた人も生き返り、地獄の入り口に蓋をするという意味もあると知り、なるほどと納得しました。

写真2

地方によっては、センブリと同じく「医者殺し」「医者倒し」と呼ばれたこともあるようです。「弘法草(こうぼうそう)」なども、ご利益があることから名づけられたものと思われます。それほどキランソウは昔から民間薬としてよく知られていたということでしょう。たくさんの呼び名や別名があるものほど、昔から人々に愛され、暮らしに利用されてきたことの証です。

生薬名は筋骨草(きんこつそう)で、開花期の全草を乾燥させて使います。関節痛や骨粗鬆症、筋肉の増強に効果があることが認められ、現在もサプリメントなどに使われています。抗菌作用があり、咳止め、去痰、解熱などの風邪薬、胃健、腹痛、下痢止め、高血圧などさまざまな効能があるようです。漆かぶれや草負けにも煎じ液を患部に塗るとよいそうです。

写真3

このキランソウ、私がお米作りをしている棚田の入り口にキラキラと生えているのがうれしく、大切にしていたのですが、今年は畦塗りをした田んぼの縁をぐるりと彩るように増えて、見事な花を咲かせていました。畦道は田植えや水の見回りの際に歩く道ですので、もしかすると足の裏について種が拡散したのかもしれません。

毎年、畦塗りをする前に泥を塗りやすくするために、畦に生えた草を鍬で全部削ぎ落として緑肥にする作業があるのですが、花盛りのキランソウを掻き落としてしまうのはなんともしのびなく、周囲からはなんともの好きな、と思われながらも少し移植させたり、諦めて掻き落としたりしています。本当は畔の淵を全部紫にしたいくらいですが。

写真4

キランソウの魅力は、藍に近い紫の濃さと、深緑の葉の組み合わせです。葉は少し肉厚でふさふさした毛が生えているのが特徴なので、紫の花の中でもいちばん見分けやすい植物です。

キランソウに似た花にカキドオシがあります。カキドオシもこの田んぼの土手に群生していて、土手は一面に紫の花に覆われてなんとも美しい景色です。カキドオシの花は大きめでキランソウの紫より少し薄い紫。昆虫を呼び寄せるための蜜標(みつひょう)と呼ばれる斑紋がさらに濃い紫であることが特徴です。

写真5

カキドオシの見分け方は、葉の形です。美しい葉脈があり、ギザギザの先が少し鈍くなった鈍鋸歯(どんきょし)状の丸い葉が特徴で、花期を過ぎた後、垣根を通すほど伸びていくことからカキドオシ(垣通し)の名があります。日本全国に生えている在来種で、キランソウと同じくシソ科です。

ミントのような香気があり、近年は代表的な和ハーブとして見直され、カキドオシを煎じたお茶が知られています。リモネンが豊富で、いかにも薬草らしい香気と清々しい味わいが人気の理由でしょう。副作用もなく、疳取草ともいわれる通り、気持ちを鎮めてくれる万能茶です。この季節に摘んで乾燥させれば、夏のお茶として誰でも気軽に楽しめます。

別名は疳取草(かんとりそう)、生薬名は連銭草(れんせんそう)で、解毒、消炎、ぜんそく、黄疸、腎結石、膀胱結石、利尿、疲労回復などさまざまな薬効があり、血糖値を下げることから糖尿病の治療薬としても期待されているようです。

写真6

カキドオシによく似た花は、ゴマノハグサ科のムラサキサギゴケとハエドクソウ科のトキワハゼです。見分けポイントは蜜標です。カキドオシの蜜標は濃い紫ですが、この2種の蜜標はオレンジ系です。葉っぱもゆるいギザギサのあるスプーン状なので、葉の違いでもわかります。

写真7

ムラサキサギゴケは6月頃まで咲いていますが、ヒョウ柄のようにもみえるオレンジの蜜標が2列の帯状でよく目立ちます。よくみると花の上部の突起が少しそりかえり、尖ったウサギの耳のようになっています。トキワハゼの方が小ぶりで上が紫、下部がかなり白っぽいのが特徴で、トキワ(常盤)の名の通り、秋まで長く咲いています。

写真8

都会でよくみかけるツタバウンラン(蔦葉海蘭)は大正時代に日本に入ってきた帰化植物です。蔓性で這うように伸び、その名の通り、蔦のような葉のかたちが見分けポイントです。花は薄紫で、上部がうさぎの耳のような2裂、黄色2点の蜜標があります。

写真9

同じ頃に咲く、本当によく似た紫の小さな野の花たち。このポイントさえおさえておけば、大抵、見分けがつくようになります。大地が緑ですっかり包まれ、ゆさゆさとした豊かさを感じ始める頃が紫の花の季節です。大きな花では杜若、文目、アイリス、鉄線などが咲いています。若く瑞々しい緑にいちばん潤いのある深みを与えるのが紫だと私は思っています。雨に濡れると一層、その美しさが増します。

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キランソウ

2018/5/15up
高月美樹 和文化研究家
高月美樹 和文化研究家

月刊婦人雑誌の編集を経て独立。96年から人生に起こるシンクロニシティを探求し、日本古来の和暦に辿り着く。2003年より地球の呼吸を感じるための手帳、「和暦日々是好日」を製作・発行。月と太陽のリズムをダイレクトに受け取り、自然の一部として生きるパラダイム・シフトを軸に講演、執筆、静かにゆっくり活動中。

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