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今回は山の日のルーツについて学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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冬至と夏至のことを二至(にし)といいます。春分と秋分は二分(にぶん)です。あわせて二至二分とか二分二至と称します。それらはいずれも二十四節気のうちの中気(たんに中とも)にあたるものです。中気は正月の雨水からはじまり、2月の春分、3月の穀雨、4月の小満と続き、5月の夏至となります。6月以降は、大暑、処暑、秋分(8月)、霜降、小雪と続き、11月の冬至を経て、大寒で終わります。二至二分は3ヵ月ごとにめぐってくるわけですが、それが乱れるのは閏月が19年に7度はいるからです。つまり3年に1回ほど中気のない月があり、それを閏月とする、という中国に発する太陰太陽暦のルールができあがりました。

この暦は華北の気候をもとに紀元前数世紀の頃に確立しました。それまでは歳末に閏月を置いていたので、閏月を分散させる点で画期的なものでした。漢民族はこれを採用しましたが、広い中国のこと、ほかの民族はかならずしもこの暦にしたがってはいませんでした。いまの四川省、雲南省、貴州省にまたがる地域に住む彝族(以下、イ族)もそのひとつで、独特の太陽暦をもっていました。十月暦と十八月暦です。

十月暦には10個の月しかありません。その古暦では、ひと月は36日でした。約29.52日の月齢をまったく無視したものだったのです。そして、年初は冬至でした。そこから数えて鼠、牛、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鳥、狗、豕(猪)という具合に十二支の動物を当て、3巡させることで、ひと月としました。そのひと月を5回くりかえしたあと(五行の木火土金水で陰)、夏至にいたるまで「過年日」(年越しの意)を1日置いたのです。夏至以降も、36日の月を5つ数え(五行の木火土金水で陽)、ふたたび「過年日」を4日入れて冬至を迎えました。さらに4年に一度、夏の「過年日」を2日とすることで、1年を平均365.25日としていました。そして夏至と冬至の前の「過年日」には祭りをおこなって過ごしていたのです。

現在のイ族も夏至の前の火把節(火祭)を祝っています。松明(たいまつ)をかざして練り歩く様子は観光客にも人気を博していますが、もともとは畑の害虫を焼き払うという意味がありました。ほかにも闘牛や相撲がおこなわれ、踊りに興じる姿も見られます。わたしも2009年に雲南省昆明で開かれた民族学の国際学会のあと、エクスカーションでイ族の村をおとずれましたが、あいにく祭りの季節ではありませんでした。それでも踊りや食事など、いかにも伝統的な文化に多少触れることができました。

つぎに、ひと月を36日とする十月暦の由来についてです。中国でも研究が進んでいるようですが、天文学者の平井正則氏はおよそ次のように推測しています。それによると、イ族は北斗七星の柄(え)の向きが季節によって変化することを天文台で観測していたそうです。そして北斗七星の柄の指す方向が1年周期であることに気づき、12の動物で数えて15周(180日)で空を半周し、30周で1回転(360度)することを発見し、3周を単位とすれば10個の月(季節)になると計算したのではないかと論じています。実際、柄杓(ひしゃく)の柄が最高点(上、北)を指すときが大暑、最低点(下、南)のときが大寒です。

古代エジプトでは恒星のシリウスを目安として太陽暦がつくられましたが(第9回参照)、古代中国では北斗七星の観測から太陽暦を導き出したとする仮説です。しかも、ひと月を36日とする根拠は動物の順数12に起因するという点でも合理性があります。

他方、十八月暦のほうはひと月20日の18ヵ月と、5日の「祭祀日」を加えて365日とする暦法です。20日の名称は「天が開けた日」(1日)、「洪水の日」(10日)、「人が生まれ出た日」(17日)のように、天地開闢神話ではじまり、洪水で生き残った兄妹の結婚によって人類が誕生するという神話によって命名されています。18ヵ月のほうは「風が吹く月」(1月)「葉が落ちる月」(16月)のように季節の推移をあらわしています。

【参考文献】
遠藤耕太郎「中国少数民族イ族の暦」岡田芳朗ほか編『暦の大事典』朝倉書店、255- 256頁、2014年。
平井正則「中国少数民族彝族の『十月太陽暦』について」『日本暦学会』第23号、1- 4頁、2016年。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。
著書に本コラムの2年分をまとめた『ひろちか先生に学ぶこよみの学校』(つくばね舎,2015)ほか多数。

中牧弘允 Webサイト
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