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今回は山の日のルーツについて学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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ケイト・グリーナウェイ(1846~1901)はイギリスの絵本作家です。まずグリーティング・カードのデザインが認められ、ついで自身で絵と文を書(描)いた最初の木版刷り絵本『窓の下で』(1878年)が爆発的な人気を博しました。とりわけ子供の服装は「グリーナウェイ・ファッション(ヴォーグ)」とよばれるほど、多大な影響を与えました。イギリス図書館協会は1955年、絵本の優れた挿絵に与える賞に彼女の名前を冠し、日本でも多数の著作が翻訳されています。

その『窓の下で』に「ケイト・グリーナウェイによる1884年のカレンダー」という4枚セットの付録がつきました。大きさはほぼB5です。そのうちの1枚はまさに“月次絵(つきなみえ)”となっています。

1月と12月の女性はマフを首から下げています。マフは16世紀後半のフランスではやった防寒具で、筒形の両側から手を入れるようになっていて、ハンドバック代わりにも使われました。19世紀にも大流行したようです。1月の子は雪玉を運んでいるようです。あるいはケーキかも。2月の子は大きな封筒をもっていますが、男の子からもらったバレンタイン・カードでしょうか。March winds and April showers bring forth May flowers. (3月の風と4月の雨が5月の花をもたらす)というイギリスの慣用表現を紹介したことがありますが(第6回)、3月にはマフラーがたなびき、4月には傘をさし、5月にはエプロンを袋がわりに花を入れています。6月はつるバラのイングリッシュ・ローズの季節です。童謡のRing a Ring o’ Roses(バラの花だ 手をつなごうよ)が関係しているかもしれません。

下段に目を転じると、7月の子はお皿にサクランボとイチゴを盛って運んでいます。8月は小麦の収穫時期で、右手に束をかかえ、左手に麦刈り鎌をもっています。9月は洋ナシのバスケットをもった姿に描かれています。10月は右手にブドウの房を、左手にはグラスをもつ女の子が登場します。11月の図は傘を小脇に抱え、水たまりを避けスカートをたぐり上げるしぐさです。12月の子がもつフラワー・バスケットにはセイヨウヒイラギとおぼしき葉と実が描かれています。クリスマスにヒイラギを飾るわけは、赤い実はキリストが流した血を、葉のとげは処刑場に向かうキリストがかぶらされた荊冠(けいかん)、つまりイバラの冠を象徴しているからです。

もう1枚のカレンダーには少女が4名登場しますが、手に羽根突きのラケットと羽根、花を積んだ乳母車に傘、ボール、そして輪回し用の輪と棒をもっています。服装から判断するに、春夏秋冬をあらわした“四季絵”でしょうか。3枚目のカレンダーにはバラの輪のなかに2人の少女が描かれています。1人は手にフラワー・バスケットをもち、もう1人は左手をマフに入れ、仲よく手をつないでいます。夏と冬を象徴するかのようです。最後のカレンダーは1年の流れとともに女性のイラストを上下左右に配しています。それはどうやら「女の一生」、つまり少女時代、乙女時代、母親時代、そして老年時代をあらわしているようです。

4枚1組のグリーナウェイのカレンダーはこの年だけの出版に終わりました。せっかくの“四季絵”や“月次絵”も人気が出なかったようです。しかし、彼女が手がけた小冊子のアルマナック(暦)は1896年をのぞいて1883年から1897年まで刊行されました。

さて、ベストセラーとなった『窓の下で』にはイギリスの風景をバックに四季折々の風俗が描かれています。子ども向けの絵本ですから、人物画の中心は子どもたちです。その愛くるしいタッチが人気をよぶ一方、模倣も盛んにおこなわれました。それに嫌気がさして、グリーナウェイ自身はイラスト版画に見切りをつけ、油絵の人物画や水彩の風景画に転じたようですが、そちらは成功をおさめませんでした。

実は、グリーナウェイの木版画は日本の影響を受けていました。輪郭線、淡く繊細な色づかい、そして間(ま)をとった空間構成などです。ジャポニズムが流行した19世紀末のヨーロッパは絵本の世界とも無縁ではありませんでした。

【参考文献】
ケイト・グリーナウェイ作、白石かずこ訳『窓の下で』ほるぷ出版、1987年。
高松節子「ケイト・グリーナウェイのカレンダー(1884)」『浦和論叢』40、2009年。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。
著書に本コラムの2年分をまとめた『ひろちか先生に学ぶこよみの学校』(つくばね舎,2015)ほか多数。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト