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十二支の申-猿文化の古今東西

今回は猿文化の古今東西について学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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昨年の暮れ、次のような記事が新聞にのりました。

大安、仏滅といった「六曜」を記載していたとして、大分県の佐伯市、杵築市、臼杵 市農業者年金協議会(同市の農業者年金受給者で構成)、国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会(県や国東半島周辺の6市町村で構成)の4者は25日、それぞれ作製していた来年のカレンダーなどの配布を中止した。

実際、配布済みのものは回収したり、六曜を削除してつくりなおしたりしたようですが、県の人権・同和対策課は「科学的根拠のない迷信を信じることが差別につながる」と説明したと報道されています。

六曜は断続的に循環する吉凶判断の占日法ですが、何が問題なのでしょうか。県側の説明では「科学的根拠のない迷信を信じる」ことと「差別につながる」ことが理由のようです。

六曜は明治中期に突然ひろまりはじめ、「おばけ暦」の流行と歩調をあわせていました(詳しくは本コラム第36回「おばけ暦―庶民のささやかな異議申し立て」を参照してください)。明治改暦のとき、政府はそれまでの暦注を「科学的根拠のない迷信」として、すべて切り捨ててしまいました。そこには方角の方位、八十八夜、入梅なども含まれていました。西洋の技術や文化・文明の導入に熱心だった明治政府は「迷信」「陋習(ろうしゅう)」「非科学的」といったレッテルを貼り、一刀両断のもとに政府にとって好ましくない伝統や慣習を断罪しました。旧暦、とりわけその暦注はやり玉にあがりました。しかし、長年暦注に親しんできた庶民は、表向きは政府の方針に従いましたが、陰では不満をかかえていました。そして官許頒暦商社の特権が終了した機に乗じ、足が付かないように密かにつくった「おばけ暦」に新種の暦注を忍び込ませたのです。その筆頭が六曜でした。

六曜は6日の循環の基本としながらも、旧暦の月がかわるごとに断絶します。旧暦では正月1日は先勝、2月1日は友引、3月1日は先負、4月1日は仏滅、5月1日は大安、6月1日は赤口となり、7月1日からまた先勝と規則的に続いていきます。しかし、新暦のカレンダーでは断絶が突然やってきて、その理由もわかりません。そんな摩訶不思議なところが魅力だと解釈するむきもあります。しかも、旧暦時代に一度も頒暦にのったことがない暦注だとすれば、禁止される筋合いではないということになります。庶民側からの、お上に対するささやかな抵抗でもあったわけです。

出版統制がきびしかった戦中、「おばけ暦」は下火になり、六曜も姿を消しかけますが、戦後、「自由」「平等」「民主主義」の掛け声とともに復権をはたします。友引、大安、仏滅は冠婚葬祭業界の発展に寄り添うかのように、社会的慣行として定着していきました。日めくりだけでなく、企業カレンダーにも六曜は進出していきました。そこでは「迷信」の声はかき消されていました。それが今になってなぜ頭をもたげてきたのでしょうか。

それが第2の理由である「差別につながる」と関連しているようです。県のコメントは抽象的なレベルにとどまっていますが、具体的にはひろく普及している慣行が一部では社会的に不利益をこうむると懸念されるからではないかと推測されます。公的機関は「自由」は尊重するけれども「平等」にも配慮することが「民主的」であるという立場です。これは戦後民主主義の精神ともいえるでしょう。

六曜はどうやら経済活動を刺激する顕在的機能と民主主義にもとる潜在的機能を合わせもっているようです。その功罪はあまり議論されてきませんでしたし、さしたる問題にもなりませんでした。クリスマスがキリストの誕生日であるという科学的根拠はまったくまったくないのに、「迷信」呼ばわりもされず、宗教をはなれた世俗的な慣行として戦後日本でも定着しました(顕在的機能)。クリスマスは科学的ではないと批判しつつ、世俗的であることに眉をひそめる信者もいることでしょう(潜在的機能)。近代日本の世俗社会が生みだした六曜は世俗化する戦後日本のクリスマスとよく似た一面―いずれも「迷信」に立脚した商魂たくましい慣習―をもっているようです。

【参考文献】
岡田芳朗『暦ものがたり』角川ソフィア文庫、2012年。とくに第十章「六曜の履歴」を参照しました。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。
著書に本コラムの2年分をまとめた『ひろちか先生に学ぶこよみの学校』(つくばね舎,2015)ほか多数。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト