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カレンダーの日-伝統の創造

今回はカレンダーの日について学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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12月3日は「カレンダーの日」です。カレンダーの業界団体(全国団扇扇子カレンダー協議会、全国カレンダー出版協同組合連合会)は1988年、明治改暦の日(旧暦明治5年12月3日=新暦明治6年1月1日)にちなみ、この日を「カレンダーの日」と定め、さまざまな広報活動をおこなってきました。2003年のポスターを見ると、「突然の改暦に当時の庶民は大混乱。カレンダー出版元は大損害をこうむりました」と無念をにじませています。

この業界団体の支援により一般社団法人日本カレンダー暦文化振興協会(通称、暦文協)が2011年に誕生しました。天文学、歴史学、文化人類学、民俗学などの研究者や暦学の研究家が中心となり、カレンダー業界と協働で講演会やシンポジウム、あるいはイベントを企画しています。

カレンダーの日には特別なイベントを組んできました。初年度は大手の書店で翌年の「カレンダー予報」をしましたが、2年目からは神社で新年の暦を奉納・奉告するようになりました。

2012年には浅草の鳥越神社で奉暦祭が執りおこなわれました。そこでは、「暦原本」と「暦文協オリジナルカレンダー」が神前に献上されました。古代日本においては御暦奏(ごりゃくそう)として翌年の暦が11月1日に天皇に献上されていました。御暦と宮廷の諸官庁にくだされる頒暦(はんれき)は「御暦奏の儀」を経て頒布されていたのです。その故事にもとづき、暦文協では神に奉納するという意味で「奉暦祭」という名称をつかいました。

なぜ鳥越神社が選ばれたのかと言いますと、江戸時代に幕府の浅草天文台が鳥越神社に隣接して置かれていたからです。葛飾北斎の富嶽百景のなかに「浅草 鳥越の不二」があります。そこには高台に設置された渾天儀のかなたに富士山が描かれています。鳥越は「寛政暦」のための天体観測がおこなわれた縁(ゆかり)の地なのです。

天神祭

2011年9月に封切られた映画「天地明察」との縁もありました。映画用の渾天儀など、天体観測用機器を角川映画から借用できたからです。「天地明察」は冲方丁(うぶかたとう)氏による同名の著作の映画化であり、主人公は安井算哲こと渋川春海です。日本初の暦である貞享暦(じょうきょうれき)の成立の経緯について、ロマンを交え小説に仕立てた『天地明察』は、本屋大賞などを受賞し、話題をよびました。

神事では衣冠束帯の陰陽頭(おんみょうのかみ)、暦博士、天文博士、そしてあでやかな采女(うねめ)が登場し、三方の上に乗せた暦原本と暦文協カレンダーが献納されました。

奉暦祭

神事の後、境内では天文博士(国立天文台計算室長片山真人氏)による天体観測器の説明があり、つづけて天文博士と暦博士(「暦の会」会長岡田芳朗氏)の講演、ならびに暦文協理事長(筆者)による翌年の「暦予報」がおこなわれました。あわせて特別展示のコーナーをもうけ渾天儀をはじめ宣命暦、授時暦、貞享暦(いずれも複製)、引札暦のパネルなどをならべました。

2013年には、「新暦奉告参拝」が明治神宮でおこなわれました。明治改暦の詔書をだしたのが明治天皇であること、それから数えて140年目の節目に当たることが考慮され、実現にいたりました。

協会幹部は神職に先導され神楽殿から行列を組み、修祓を受けた後、本殿において正式参拝をおこないました。その際、新暦の暦原本を三宝に乗せて神前に供えました。そして神楽殿に進み、一般の会員ともども祈願の祈祷を受け、巫女舞の奉納にあずかりました。

新暦奉告参拝

参集殿では岡田芳朗氏による「明治改暦から140年」と題する講演がおこなわれました。演者は太陰太陽暦から太陽暦への切り替えの意義について、時代背景と照らし合わせながら述べられました。参集殿では、「改暦詔書」の写しや『改暦弁』(福澤諭吉)などのパネル展示もあわせていたしました。

一連の企画と運営は暦文協によって遂行され、まさに文化人類学でいうところの「伝統の創造」が意識的になされました。それは伝統の忠実な復活ではなく、故事にもとづきながら新しい伝統をつくる営為でもあったのです。

新暦奉告参拝
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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト