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今回は紀元二千六百年ついて学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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紀元2600年の国威発揚

太平洋戦争突入の前年、すなわち昭和15年は、神武天皇即位紀元(皇紀)の2600年にあたりました 。西暦では1940年ですが、紀年法としての西暦が一般に使われるようになったのは戦後のことです。当時の神宮暦(和綴じ)にはキリスト生誕紀元は泰西1940年としてわずかに記載があるだけで、広告宣伝用の略暦(一枚物の引札暦)にはまったく載っていませんでした。人びとはもっぱら元号と皇紀、それに干支をもって年を記録・記憶していたのです。

この年のハイライトは11月10日に天皇・皇后の臨席のもと、宮城前広場において開催された「紀元二千六百年」を祝う式典でした。それにむけて内地・外地を問わずさまざまな行事や活動がおこなわれ、国威がおおいに発揚されました。

イラスト1
オリンピック・万博の構想から実現まで

東京都や政府が国威発揚の最たるイベントとして構想したのはオリンピックと万博の同時開催でした。政府は紀元2600年を機にオリンピックと万博の誘致に成功しましたが、昭和12(1937)年にはじまった日中戦争(支那事変)の長期化にともない、東京の夏季オリンピック、札幌の冬季オリンピックは中止、東京の日本万国博覧会は延期(事実上の中止)となりました。とはいえ、隅田川にかかる勝閧橋(かちどきばし)が残り、万博の前売り入場券も大阪万博と愛知万博で通用したことはあまり知られていません。そればかりか、悲願の東京オリンピックは1964年に実現し、万博も会場は大阪となりましたが1970年に6400万人を越える来場者をむかえて空前の活況を呈しました。札幌の冬季オリンピックも1972年に長年の夢が実を結びました。

イラスト2
国史の聖蹟巡礼と外地に広がる旅行熱

対外的な国際イベントによる国威発揚は挫折を余儀なくされましたが、対内的にはいわゆる皇国史観にもとづく国史の一大ブームがおこり、神武天皇ゆかりの聖蹟(せいせき)は「肇国(きょうこく)の聖地」として整備されました。天孫降臨の高千穂峰、神武天皇が即位した橿原(かしはら)神宮、その近くにある神武天皇陵などが聖蹟に認定され、勤労奉仕による建設事業がすすめられる一方、他方では旅行文化と結びつき修学旅行をはじめとする聖蹟巡礼がさかんにおこなわれました。

旅行熱は内地にとどまるものではありませんでした。鉄路、海路、空路をつかった外地への余暇旅行は紀元2600年においても衰えを知りませんでした。京城(いまのソウル)観光では朝鮮総督府、景福宮、東大門外の朝鮮人町などが目玉の訪問先で、天照大神と明治天皇をまつる朝鮮神宮や京城神社、乃木神社なども含まれていました。満州観光では日清・日露の戦争で激戦地となった旅順は必見でした。それ以外には、首都新京(今の長春)、鞍山(あんざん)の製鉄所、撫順(ぶじゅん)の炭鉱、大連(だいれん)のリゾート地・星ヶ浦(今の星海公園)、満州国皇帝溥儀の皇宮などがあげられます。

外地日本人の祝典参加

大日本帝国の領土外の日本人にとっても紀元2600年は特別な年でした。というのも、11月4日に紀元二千六百年奉祝海外同胞東京大会が日比谷公会堂で開かれたからです。ハワイ、アメリカ、カナダ、ブラジル、ペルー、アルゼンチンならびにフィリピンなどから代表1400人あまりが集まりました。宮城への行進、宮城・橿原神宮・明治神宮への遙拝のあと「紀元二千六百年頌歌(しょうか)」が歌われ、近衛文麿首相、松岡洋右外相、東条英機陸相らの式辞や祝辞に耳を傾ける一方、参加者代表も宣誓文を読み上げ、「天皇陛下万歳」を発声し、最後に全員で万歳を三唱しました。

イラスト3
現代史再考をせまる年

アメリカの歴史学者ケネス・ルオフは『紀元二千六百年―消費と観光のナショナリズム』という著書のなかで昭和15年は戦後の思想史や歴史学が言うような「暗い谷間」ではなく、国威発揚が消費や観光と結びつき、大衆的消費社会が頂点に達していたと見なしています。たしかに「暗い谷間」はその直後にやってくるわけですが、戦後復興をはたして、高度経済成長を迎え、オリンピックや万博が開催されるに至って、紀元2600年とふたたびつながると理解することもできます。その意味で紀元2600年は現代史の再考をせまる年だったと言えるかもしれません。

【参考文献】
ケネス・ルオフ(木村剛久訳)『紀元二千六百年―消費と観光のナショナリズム』朝日新聞出版、2010年。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト

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