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今回は山の日のルーツについて学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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浮世草子生みの親

井原西鶴は大坂の町人で、江戸時代、とくに元禄期にかけて活躍した俳人であり、かつ浮世草子の作家です。浮世草子は西鶴の『好色一代男』をもってはじまるとされるので、その生みの親でもあります。西鶴が得意としたジャンルは好色物をはじめ武家物、町人物におよびました。その町人物の双璧が『日本永代蔵(にっぽんえいたいぐら)』と『世間胸算用(せけんむねざんよう)』です。前者は6巻6冊で30話、後者は5巻5冊の20話からなり、いずれも短編集です。ちがいは『日本永代蔵』が日本初の経済小説とみなされるのに対し、『世間胸算用』は西鶴の到達点と目されていることでしょうか。

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大晦日は一日千金

『世間胸算用』は「大晦日は一日千金」という副題をもち、年末年始の名もなき庶民の暮らしぶりを生き生きとえがいています。とくに貧乏人と借金取りのやりとりが胸を打ちます。当時の商売といえば掛け売りが普通であって、節季や月末に支払う習わしがありました。だから大の月(30日)と小の月(29日)をわきまえることが肝心であり、大晦日ともなれば、その年の精算をすべて済ませなければ年越しができないという事情が介在していたのです。

イラスト2

ところが、払いたくても手元が不如意(ふにょい)な町人も多く、取り立てをあの手この手でかわしながら、ようやく新年を迎えるという実態もありました。西鶴が心を寄せたのは、そうした社会の底辺にうごめく人びとでした。元禄の好景気に沸く大店(おおだな)がある一方、小鰯(ごまめ)一匹買えない小家(こいえ)も存在していたからです。

質屋で一悶着

正月を迎えるために質屋をたよることも多々ありました。「長刀(なぎなた)はむかしの鞘(さや)」では質種(しちぐさ)がリストアップされていて、古傘・綿繰車・茶釜で銀一匁(約1600円)などと記されています。長屋に住む幸若舞(こうわかまい)の太夫(たゆう)は烏帽子(えぼし)・直垂(ひたたれ)・大口袴(おおぐちばかま)を質に入れ、銀2匁7分(約4300円)を得る一方、正月のあいだは二束三文の大黒面と打出(うちで)の小槌(こづち)をもって門付の大黒舞に商売替えをして暮らしたそうです。長刀の鞘を質入れしようとして「なんの役に立つのだ」と質屋の亭主に突き返された貧乏浪人の妻は、これは父が関ヶ原の合戦で手柄をたてた長刀だ、よくも先祖に恥をかかせたなと言って亭主に取りすがって泣き出し、とうとう銭300文(約8000円)と玄米3升 をせしめたという話が次に続きます。

イラスト3
借金取りの撃退法?

借金取りから逃れるために寺社を参詣したり、妾(めかけ)のところに姿をくらましたりすることは常套(じょうとう)手段だったようですが、亭主を交換するという秘策もありました。「夜の三〇石船」は大晦日の闇夜に淀川をくだる三〇石船のなかが場面です。そこでつらい身の上話をする乗客のなかにひとり上機嫌の男がいて、借金取りの撃退法を披露しています。それによると、親しい亭主どうしが互いの家に乗り込み、借金取りがくると妻に向かって「当方の金はほかの借金とはちがい、亭主のはらわたをえぐりだしてでも片をつける」とすごめば、おそれをなして帰ってしまうと明かします。これを「大つごもりの入れかわり男」と言うのだそうです。

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井原西鶴のお墓

大晦日という日は一日でも値千金の価値があり、元日からしっかり胸算用をして覚悟をしなればならないと西鶴は序に書いています。その翌年、元禄6年(1693)に西鶴は52歳で亡くなりました。お墓は大阪の上町(うえまち)台地に建つ浄土宗誓願寺にあります。先日、墓参りにいったところ、その墓地には懐徳堂(かいとくどう)の学主を歴代つとめた中井家の墓もありました。懐徳堂は町人に学問や道徳を教えた学校であり、西鶴の没後に設立され、大阪大学の前身とされています。好色や風俗の文学と修養を重んずる儒学とが共存し、はからずも大坂の町人文化の幅の広さを感じとった次第です。

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【参考文献】
暉峻康隆訳・注『現代語訳・西鶴 世間胸算用』小学館、1992年。
本渡章『大阪暮らしむかし案内 江戸時代編―絵解き井原西鶴』創元社、2012年。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト

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