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今回は山の日のルーツについて学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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「花鳥」が主役で、「風月」は付け足し?

前回のコラムで、花暦は広辞苑に載っている単語ですが、鳥暦や風暦はまだ採択されていないと述べました(第110回)。しかし、頻度は少ないとはいえ、鳥暦は風暦よりは使用されている用語です。実際、高円宮久子殿下の撮影になる鳥のカレンダーが「鳥暦」と銘打たれていますし、『鳥暦花便(とりごよみはなだより)』というタイトルの本も出版されています。また北海道の霧多布(きりたっぷ)湿原には月ごと、鳥ごとに一覧化された鳥暦が存在しています。

イラスト1

阿寒湖畔エコミュージアムセンターには「阿寒生き物カレンダー」と称するコーナーがあり、生き物ごと、月ごとに円盤に表示されています。生き物の分類は哺乳類、鳥類、魚類、昆虫、植物となっていて、鳥類はその4分の1を占めていました。具体名としてはホシガラス、アカゲラ、キクイタタキ、シジュウカラ、ヤマセミ、クマゲラ、アオジ、オジロワシ、センダイムシクイ、シマフクロウの10種がとりあげられていました。

イラスト2
表現の難しい「風」

いわゆる自然暦には鳥と季節を結びつける無数の事例が存在しています。その例を河口孫次郎著『自然暦』から紹介してみましょう。

事例1 樫の実の落つる頃ヤマバトが群をなして来る。
宮崎県日向地方。ヤマバトはアオバトのこと。樫の実の落ちるのは陰暦正月中旬とのこと。

事例2 桃のつぼみにウソが来る。
福岡県八女地方。ウソはスズメ目アトリ科ウソ属の鳥で、ヒーホーと口笛のような鳴き声を発するそうで、古語「うそ」は口笛の意。

事例3 越後屋根屋と燕は春に来たりて秋帰る。
長野県川中島地方。茅の屋根をふく屋根屋が越後(新潟県)から出稼ぎに来ることをツバメの去来になぞらえています。

事例4 ホウホウ鳥が出ると熊も洞穴から出る。
福島県会津地方。猟師仲間の言いぐさで、ホウホウ鳥とはカッコウ科のツツドリのこと。冬眠していた若いクマは3月末より洞穴から出てくるそうです。

事例5 ウグイスの声を聴いて苗代に種をまく。
山形県最上地方。ここにかぎらず、ウグイスは春を告げる鳥として親しまれてきました。

事例6 豆蒔鳥(まめまきどり)が啼(な)くから豆を蒔かねばならぬ。
近畿地方。豆蒔鳥とはカッコウのこと。関東や東北、中国地方にも似たような言いまわしがあります。ちなみに静岡県遠江では麦蒔鳥とはセキレイのことで、島根県隠岐には麦蒔雁という呼び名もあります。

事例7 秋に入って椋鳥(むくどり)が渡って来ると最早暴風が吹かぬ。
福岡県久留米地方。椋鳥はコムクドリを意味し、当該地方では9月に入って後、群れてあらわれるのが恒例のようです。モズが鳴きはじめると大風は吹かないという伝承は熊本県八代地方、長崎県平戸島などにもあります。

イラスト3

事例は枚挙(まいきょ)にいとまがありませんが、鳥の飛来や生態が農事暦や気象と関連づけられています。しかも、全国に広くみられる場合もあれば、地方独特の伝承になっている場合もあります。仮に鳥暦と名づけても、体系化されているわけではありませんし、ひろく共有されていることもありません。それでもなおローカル・ノレッジ(インドネシアを研究した文化人類学者のC.ギアーツが提示した概念。地方固有の知)として情報の一端を担ってきました。

「風暦」

鳥はまた、占いにもかかわってきました。作柄や天候を予測する手段としても活用されてきたのです。広島県の民俗資料から、その例をとりあげてみましょう。

豊作:小鳥が多い年。ツバメが巣を粗末につくる年。ツバメが早くくる年。 カッコウがやかましいほど鳴く年。ウグイスが早く鳴く年。

凶作:ホトトギスの鳴くのが遅い、また鳴かない年。キジ、カケスの多い年。ハトが多い年は豆が不作。

天候:渡り鳥が早くくる年は寒気烈しく雪多し。

イラスト4

山階鳥類研究所の奥野卓司所長によると、鳥は「気温」ではなく「日長」を体内時計にしているそうです。つまり気温は年による変化があるのに対し、日長は地球の公転にもとづくから一定だと言うのです。それゆえ日本の花鳥風月は宇宙のリズムを体現する鳥暦によって保証されている、と指摘しています。

【参考文献】
河口孫次郎『自然暦』八坂書房、1972年。
村岡浅夫編著『広島県民俗資料1 民間暦と俗信』小川晩成堂、1967年。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト