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今回は山の日のルーツについて学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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「花鳥」が主役で、「風月」は付け足し?

9月になると台風シーズンを予告する日本独特の雑節―210日と220日―と中秋の名月―旧暦の8月15日―がやってきます。風と月の組み合わせですから、まさに風月です。風月といえばその名のついた有名な老舗菓子メーカーを連想する人もいるでしょうが、ふつうは花鳥風月の四字熟語を想起するにちがいありません。

イラスト1

花鳥風月とは「天地自然の美しい風物」、あるいは美しい自然を観賞する「風流な遊び」を表しています。花鳥とは、「花を見、鳥の声を聞く風雅な心」であり、風月とは、「清風と名月」、「風や月を材料として詩歌を作ること」、あるいは「自然の風物に親しむこと」とあります(カギかっこ内はいずれも広辞苑)。たしかに和歌や俳句では花鳥風月を季節に合わせて詠んでいます。しかし、絵画のほうでは花鳥図は多くあっても風月図はあまり聞いたことがありません。つまり、花鳥が主で風月は付け足しにすぎないのです。暦の種類でも花暦、すなわち「花の咲く時節を四季の順に記し、各条の下にそれぞれの花の名所を掲げた」(広辞苑)暦はありますが、鳥暦以下は風暦も月暦も辞典の熟語としてはいまだ認知されていません。花暦だけが突出しているのです。

イラスト2
表現の難しい「風」

花鳥図のなかには四季花鳥図とよばれるジャンルがあり、春夏秋冬を花鳥で表現することに特化させています。代表的な作品には狩野元信の四季花鳥図(大徳寺塔頭大仙院、16世紀、京都国立博物館)があり、花鳥にのみ濃彩をほどこし、強烈な色彩効果をあげています。これは襖8面のうちの4面に春夏秋冬を分離して描いています。元信には六曲一双の四季花鳥図屏風(白鶴美術館)もあり、金地に極彩色で梅や桜、孔雀や鷺を華麗に描いた作品もあります。前者は四季を個別に、後者は四季を春夏・秋冬に分離・融合して描写しています。しかし、風も月もそこには見当たりません。

日本の絵画において、月はともかく、風はどう表現されてきたのでしょうか。風は直接見ることができないので、四季絵の伝統においてはひらひらと舞う落ち葉であらわすことがあります。季節はもちろん秋です。現代画では風にそよぐカーテンでそれを示唆した作品を見たことがあります。ただし季節とは関係ありませんでした。

イラスト3
触覚が頼りの「風」

風は、花鳥風月においても、四季絵や花鳥図においても、脇役に甘んじてきました。花鳥のように視覚で容易に判断できる事物とは異なり、風は触覚が頼りの感覚です。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」(古今和歌集、藤原敏行)、あるいは「東風(こち)吹かば匂いおこせよ梅の花主(あるじ)なしとて春な忘れそ」(菅原道真)のように多少は聴覚と嗅覚も加担はしてくれますが、花鳥風月における視覚の圧倒的優位はゆるぎません。

「風暦」

ところで、オーストラリアの先住民の言語のひとつであるグウグ・イミディール語では東西南北が絶対的指示枠になっているそうです。左や右をつかわず、「ページを東から西にめくりなさい」と言うらしい。西から東への移動について説明する場合には、話者がどの方向を向いて座っていても、例外なく線は西から東に引かれていたそうです。このような方向感覚をなぜ持ち出したかというと、おなじオーストラリア先住民のある集団の場合、季節は風の方向によって決められているからです。しかも季節風は基本的に東西南北の4方向と結び付けられているそうです。雨季や乾季が東西南北の風によって体感される「風暦」がそこには存在しているのです。詳しくは、後日、別稿を用意したいと思っています。

イラスト4

日本(人)の心を花鳥風月に託す言説に異を唱えるわけではありませんが、風向きをすこし変えてみる価値はあるかもしれません。

【参考文献】
森光有子「ことばの違いから文化を読む」『相愛大学人文科学研究所年報』4号、5-6頁、2010年。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト