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今回は山の日のルーツについて学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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年度があらたまり、各地で桜が満開です。いつの頃からか、入学式の記念写真に桜が背景として欠かせない存在になりました。といっても、これは大阪や東京あたりの話で、沖縄や東北・北海道には無縁のことです。南北につらなる日本列島は桜前線の北上がお決まりのコースです。沖縄では1月に咲きはじめ(写真1)、本州では3月末から4月が見ごろとなり、北海道は5月に他の花とともに一斉に咲きほこります(写真2)。桜の開花を春とみなす花暦をつくるとすれば、日本の春は1月から5月までとなります。

写真1 写真2

しかし、暦の上での春は機械的です。マスコミが「暦の上では」という表現を使うときは、きまって二十四節気のいわゆる「節切り」です。春の場合は立春から立夏の前日までとなります。これに対し、旧暦では「月切り」の春夏秋冬があります。春は1月、2月、3月、つまり睦月、如月、弥生がそれに当たります。年賀状で新春とか迎春と書くのはこの「月切り」の名残りといえます。

西行の有名な和歌にも桜が詠(よ)まれています。「願わくは 花の下(もと)にて われ死なむ その如月の 望月(もちづき)のころ」とあり、実際、かれは旧暦の2月15日に河内国で73歳の生涯を閉じました。その日は、現在の太陽暦では3月31日にあたります。そして花は、梅ではなく桜でした。

花は梅ではないとあえて指摘するのは、奈良・平安初期の和歌において花といえば、梅をさすのが常だったからです。梅は中国からもたらされ、貴族社会で尊ばれました。それに対し、遣唐使が廃止され、国風文化が興隆していく過程で、花も外来種の梅に代わって在来種の桜となったのです。古今和歌集(905年)の「見わたせば 柳桜をこきまぜて 都ぞ春の 錦なりける」(素性法師)あたりが画期となっているようです。

ここでちょっと脱線して「花」の比喩的表現について説明しておきましょう。和歌の世界で古くは梅、後に桜をさすようになった「花」は換喩(かんゆ、メトニミー)といいます。「永田町」が国会を、「金バッジ」が国会議員を指すのと同じです。これに対し、「職場の花」という修辞は隠喩(いんゆ、メタファー)です。この場合の花は特定の種類ではなく、華やかで周囲を明るくする働きに注目しています。修辞法にはもうひとつ直喩(ちょくゆ、スィーミリー)があります。「彼女は花のように美しい」というのが、その例です。

西洋では花のなかの花はバラです。それが花言葉では「愛情」を意味することは日本でもよく知られています。スイセンはギリシャ神話の美少年ナルシスにたとえられますから、「自己愛」となります。イギリスでは絵本作家のケイト・グリーナウェイの挿絵付の花言葉辞典が評判を呼び、花言葉の普及におおいなる貢献をしました(第90回参照)。ちなみに、日本の花言葉では、桜は「精神美」を、山桜は「純潔」や「淡泊」あらわしています。

閑話休題。桜の歳時記に話題を転じましょう。桜といえば花見、花見といえば桜です。花見の起源には二つあり、平安貴族の花見と農村行事の花見です。前者は平安中期から盛んとなり、後者は「山行き」とか「春山入り」といって、近くの小高い山に登り、花の下で飲み食いをしながら一日をすごす、冬を送り春を迎える行事でした。白幡洋三郎氏によると、いずれも3つの条件がそろって成立します。すなわち、群れ咲く「群桜」、酒と肴の「飲食」、そして群れ集う「群衆」です。こうした花見は日本にしかない、と白幡氏は強調します。

わたしもワシントンのポトマック河畔でソメイヨシノを愛でる「群衆」を見ましたが、「飲食」はしていませんでした。オックスフォード大学でも夜桜の下で宴会をしている学生たちの姿を見かけましたが、庭先の桜ですから「群桜」とは言えませんし、「群衆」でもありませんでした。例外として、ブラジルの日系人がはじめた「桜祭り」があり、花見に近いものが存在します。

謎めいたことに、国内でも3点セットの桜の花見をしない地域があります。それは奄美・沖縄です。桜の種類がちがうだけではない、文化的・歴史的な理由があるのでしょう。

【参考文献】
白幡洋三郎「世界に花見はあるか―逆欠如のなかの日本文化」園田英弘編『逆欠如の日本生活文化―日本にあるものは世界にあるか』思文閣出版、2005年、382 394頁。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。
著書に本コラムの2年分をまとめた『ひろちか先生に学ぶこよみの学校』(つくばね舎,2015)ほか多数。

中牧弘允 Webサイト
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