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花鳥風月とこよみ-趣味の世界の名月

今回は、「趣味の世界の名月」について学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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「花鳥」が主役で、「風月」は付け足し?

こよみの上での月と言えば、やはり中秋の名月をおもいうかべることでしょう。中秋とは真ん中の秋、すなわち旧暦の秋である7、8、9月の8月をさします。この場合の秋は、月切りの秋です。月切りでは正月、2月、3月が春で、4月、5月、6月が夏、そして10月、11月、12月が冬となります。中秋の名月とは、旧暦8月の満月を意味することは言うまでもありません。ちなみに、月切りに対しては、二十四節気の四立(立春、立夏、立秋、立冬)で切る節切り(せつぎり)があります。「こよみの上での秋になりました」という場合は、こちらの節切りがもちいられています。

旧暦の秋
「花鳥」が主役で、「風月」は付け足し?

ではなぜ旧暦8月の十五夜の月だけが名月なのでしょうか。空が澄みわたっているという説もあれば、収穫が終わってお供えができるという説もあります。いまは団子を供えますが、かつては「芋名月」の異名をとるほどに芋が主流でした。東北地方の河川敷で「芋煮会」がさかんに催されるのもこの季節です。芋は里芋と相場が決まっていますが、ジャガイモなど他の芋を排除することはありません。

芋煮会

いずれの説にしても若干の難点があります。前者の説の場合、台風シーズンとの折り合いが問題です。後者の説の場合は、芋からもち米のように収穫物の変遷が取り沙汰されるでしょう。さらに、ルーツである中国に意味を求めれば、別の解釈も浮上します。

「花鳥」が主役で、「風月」は付け足し?

中国の中秋節は「中国四大伝統節日」といわれる祝日のひとつです。他は春節、清明節、端午節です。しかし、実際の主役は月餅(げっぺい)です。祭壇をしつらえ、供物をささげ、月をまつる祭事に端を発してはいますが、次第に満月に見立てたお餅で、家族や一族の円満をお祝いすることに比重が移りました。中秋節が「団円節」とか「団欒説」の異名をとるのはそのためです。いまの中秋節は里帰りの季節でもあり、道路が渋滞し、交通機関は麻痺します。また、贈り物としての月餅も飛ぶように売りさばかれます。「花より団子」をもじれば「月より月餅」です。

月餅

韓国でも中秋の15日は秋夕(チュソク)といって墓参りなどはしますが、団子や月餅のような行事食はとくにないようです。

「花鳥」が主役で、「風月」は付け足し?

このようにみてくると、たしかに月を愛で、月をまつる心意は東アジアにゆきわたっていますが、そこには濃淡があるようです。中国や韓国では家族や親族のつながりが重視され、中国では月餅の贈り物がそれに輪をかけ、韓国では先祖祭祀が頭をもたげています。それに対し、日本では血縁はことさらに意識されることなく、月見だけがススキと団子をともなって行事化されています。どうしてそうなったか。それを解く鍵は貴族趣味にあるとわたしは睨んでいます。

お月見

平安時代の貴族は遣唐使を廃止するまで中国文化を受容するのに熱心でした。観月の宴を催し、舟遊びに興じ、和歌を詠みました。酒杯や水面に写る月を楽しんだりもしました。絶頂期の藤原道長は「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」と栄華を満月にことよせて歌いあげました。

絵画の世界でも松竹梅とともに雪月花(せつげっか)がもてはやされるようになりました。雪月花は白居易の詩に由来する熟語ですが、めずらしい取り合わせとして和歌にも詠まれ、宝塚歌劇団の組分けにもつながりました。

宮廷の貴族文化に取り入れられた中国趣味は次第に庶民階級にも浸透していきました。しかも、国風化していったのです。中秋節は芋文化と合流し、魔よけとも依り代ともいわれるススキと合体しました。中国とは似ても似つかぬ習俗となって広がったのです。しかし、その発端は中国風を尊ぶ貴族趣味にありました。趣味の世界のことですから、所詮、血縁とは無縁だったのです。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト