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今回は山の日のルーツについて学んでみましょう! こよみの博士ひろちか先生
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「ちりめん」ってなに?

海を渡った日本のカレンダーは川俣絹布整練の浮世絵カレンダー(第91回参照)だけではありません。ちりめん本とよばれる冊子を媒体に、カレンダーもまた欧米人を魅了しました。

「ちりめん」とは漢字で縮緬と書くところのちぢれた絹織物のことです。京都府の丹後ちりめんがもっとも有名ですが、滋賀県長浜の浜ちりめんや越後ちりめんもよく知られています。人気テレビドラマの水戸黄門は「越後のちりめん問屋のご隠居」で光右衛門を名乗っています。

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ちりめんは横糸に強い撚(よ)りをかけた高級な織物です。シボとよばれる凹凸をもち、シワを防ぐとともに、肌触りの柔らかさに特徴があります。丹波ではもともと京都の西陣から技術を持ち帰り、細々と生産していましたが、大火で織機を多数焼失した西陣に代わって台頭し、京の市場で成長をとげました。

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国際出版のはしり、ちりめん本

そのちりめんに似た感触をもつ、和綴じ本が考案されました。ちりめん本の誕生です。生年は1885(明治18)年、生みの親は長谷川武次郎です。手のひらサイズ(約10㎝×15㎝)のカラフルな和装本は、日本の物語や風俗を浮世絵の挿絵付で紹介し、日本人のための外国語教材としてだけでなく、帰国する外国人の格好のお土産としても高い人気を博しました。これが日本における国際出版のはしりとなり、カレンダーもその一角を担ったのです。

イラスト3

ちりめん本の主力商品は日本昔噺集(Japanese Fairy Tales Series)でした。はじめは桃太郎や舌切雀などの昔噺を英文に訳していましたが、フランス語、ドイツ語、さらにはスペイン語やポルトガル語等へと範囲を広げていきました。カレンダーにはイタリア語版やオランダ語版もありました。ちなみに、翻訳を担当したのは日本に滞在していた外国人です。ヘボン式のローマ字を創案した宣教師のジェームズ・ヘボン、東京帝国大学のお雇い外国人教師であるバジル・ホール・チェンバレンらが長谷川の依頼を受け、20篇の日本昔噺集を完成させました。他方、小泉八雲の名で知られるラフカディオ・ハーンもちりめん本に関心をいだき、長谷川に書簡を送り、創作噺を5冊、大判ちりめん本で出版しています。

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ちりめん本のカレンダー

他方、カレンダーのほうは日本の風景や風俗を取り上げています。それには「道端の情景」もあれば「月あかりの情景」もあります。「月ごとの婦人たち」に対比されるものには「月ごとのこどもたち」があります。たとえば「月々の日本の情景 Monthly Changes of Japanese Street-Scenes」(1902)は12ヵ月を見開き2頁で紹介しています。挿絵の図柄は、1月は新年の待乳山(まつちやま)の雪景色、2月は王子稲荷の祭礼、3月は富士山を遠景とした彼岸、4月は小金井桜、5月は亀戸天神の藤、6月は山王祭の夕立、7月は隅田川の川開き、8月は不忍池の蓮、9月は須磨の月光、10月は浜御殿の菊祭、11月は高尾山の紅葉、12月は浅草寺の夜店といった具合です。「1923年のカレンダー Calendar for 1923」を見ると表紙は朝日と雲、1月・2月は富士山、3月・4月は海辺の公園(浜離宮?)、5月・6月は寛永寺のしだれ桜、7月・8月は雨にけぶる錦帯橋、9月・10月は宮島の鳥居の間に沈む夕日、11月・12月は篝火(かがりび)を焚く鵜飼となっています。

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ちりめん本を多数所蔵するのは国立国会図書館ですが、いくつかの大学図書館も健闘しています。しかし、ちりめん本のカレンダーとなると放送大学の附属図書館が充実しています。そのホームページでは美しいカレンダーを電子ブック版で閲覧することができます。

ちりめん本の誕生は奇しくもハワイ官約移民の開始と軌を一にしていました。日本政府とハワイ王国が提携し、サトウキビ耕地での契約労働に日本人移民が送りだされた時、外国人にもてはやされた日本の伝統的イメージがちりめん本に乗って海外に輸出されたのです。これは明治という時代がもつ表裏一体の動向だったと言えるかもしれません。

【参考文献】
石澤小枝子『ちりめん本のすべて-明治の欧文挿絵本』三弥井書店、2004年。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト