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フィリピン人 こよみの博士ひろちか先生
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「アジアのラテン」フィリピン?

フィリピンは7000を越える島々からなる島嶼(とうしょ)国家です。国名はスペインの国王フェリーペ2世に由来し、16世紀後半からスペインの支配下におかれました。スペインは政教一致の支配体制をとったので、カトリックへの改宗がすすみました。高槻の城主であった高山右近がキリシタン禁教令によって追放されたとき、逃れた先がマニラであったことは知る人ぞ知る歴史でしょうか。19世紀末、米西戦争の結果、アメリカはスペインからフィリピンの領有権を獲得し、1902年から本格的な統治をはじめました。アメリカのカリキュラムにもとづく英語教育はその一例です。1841年に太平洋戦争がはじまると、日本軍がフィリピンに侵攻し、占領地には軍政を敷きました。そして日本が降伏したあと、1947年7月にフィリピン共和国として独立しました。

フィリピンがしばしば「アジアのラテン」と形容されるのは、スペインの影響がつよいからです。とくに宗教の面ではカトリック教徒が人口の約85%を占めていて、クリスマスやイースター、あるいは日本のお盆のように墓参りをする11月2日の万霊節など、教会暦にもとづく年中行事に彩られています。ただし、ラテンとは言ってもブラジルのようにカーニバルを盛大に祝うことはありません。

イラスト1

かつてクリスマス・シーズンにカレンダーを求めてマニラを訪問したことがあります。キアポ地区のナザレ教会前の広場には露店がたちならび、聖母マリアや幼子キリスト(エル・ニーニョ)など、宗教的な絵柄をあしらった壁掛けカレンダーがたくさん売られていました。他方、ゴールデン・モスクの門前では選挙キャンペーン用に4ヵ月分のヒジュラ暦を載せたカレンダーを入手することができました。フィリピンの南部にはモロ人などのイスラム教徒が暮らしていて、都市部にも移住しているのです。

日本に同化したフィリピン人向けのカレンダー

多くがカトリック教徒のフィリピン人はアジアのなかでも突出して世界各地に移住することで知られています。日本でも現在、約27万人の人たちが暮らしています。ダンサーや歌手として就労する女性や農家の花嫁として来日する女性たちが典型でしたが、最近は介護などに従事する人たちも増えています。そのためブラジル人のように集住することはなく、分散居住を特徴としています。また、家庭に入っているので、同化の度合いが高く、独自の言語や文化を継承することに困難をおぼえています。

そうしたフィリピン人向けにいくつかのカレンダーが発行されています。静岡県立大学の高畑幸先生が収集した二つのカレンダーを紹介させていただくと、ひとつは「カラクバイ(旅のおとも)」と名付けられた手帳型のカトリック・カレンダーです。ここには日本の祝日とカトリックの祭日しか載っていません。フィリピンの祝日は無視されています。日本で暮らす人たちがカトリックの信仰を忘れないためのもののようです。

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フィリピン文化に親しむカレンダー

もう一つは「KMCサービス・カレンダー」です。これは在日フィリピン人向けに国際電話の営業代理店からスタートし、旅行代理店から雑誌の発行、医療相談まで幅広く手掛ける専門商社が発行するものです。こちらには日本とフィリピンの祝日が載っています。二つ折りのタイプで、上の絵柄には「フィリピンの伝説」が描かれ、フィリピノ語で解説がついています。たとえば2005年版には「マヨン火山の伝説」や「パイナップルの伝説」がイラスト付きで紹介されています。このカレンダーは移住第一世代にはノスタルジーを喚起させ、第二世代には生活のなかでフィリピン文化に親しむ機会をつくっている、と分析されています。このようなカレンダーがとりわけ二世とってはルーツへの絆(きづな)の維持に役立っているのです。しかし、この企画は2000年代半ばで途絶えました。

イラスト3

かわりに、2010年代から増えているのは、フィリピンに安近短の英語留学する日本人向けのカレンダーだそうです。留学生にとってはフィリピンの祝祭日を知ることが必須だからです。カレンダーはかくも時代を明瞭に反映する貴重な情報源となっているのです。

【参考文献】
高畑幸「まいにち・おもいだす・ふるさと―在日フィリピン人向けのマルチカレンダー」『民博通信』No.109、2005年。
高畑幸「フィリピン共和国」中牧弘允編『世界の暦文化事典』丸善出版、2017年。

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日本カレンダー暦文化振興協会 理事長

中牧 弘允

国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授。
吹田市立博物館館長。専攻は宗教人類学・経営人類学。

中牧弘允 Webサイト
吹田市立博物館Webサイト

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